消費税の増税でネイルサロンのジェルネイルの価格が二極化の兆し

〜週刊経済news 4月2日号より〜

2014年4月1日、消費税率が従来の5%から「8%」に引き上げられた。
増税前の3月末には、駅の定期券売り場に長蛇の列ができたり、新築マンションや自動車、家電といった高額商品の駆け込み購入や、水や米などの日用品のまとめ外が活発化するなど、通常の年度末には見られない光景が見られた。
そして迎えた4月1日。
1日過ごすだけで、消費増税の変化を感じ取る事ができた。
イカPASMOの料金が1円刻みになったり、普段買う雑誌や新聞、タクシーの初乗り運賃も数十円の値上げとなっていた。
都内のデパートや商店街も、月末の駆け込み需要の反動のせいか、客はまばらであった。

筆者が専門とする美容分野でも、消費税増税に伴う変化が起きている。特に顕著なのがネイルサロンだ。
ネイルサロンは、マニキュア(ポリッシュ)、ジェルネイル、スカルプチュアなどのネイルアートを来店者に施術するサービス業態だ。
利用者数も多く、美容業界の中でも、美容院(ヘアサロン)に次ぐ規模のサロン店舗数、市場規模を誇る。
ネイルサロンの主な事業構造は、女性ファッション雑誌や、ホットペッパービューティー等のクーポン誌に広告を載せ、来店者を集める方法だ。
利用者はネイルサロンの場所や料金、サービス内容を比較検討して利用店舗を決める。
初心者がネイルサロンを決める大きな比較材料は価格だ。写真や説明を見ても、的確に判断できるとは限らないからだ。
そのネイルサロンの価格が、4月に入り大きく動いている。
クーポン誌に広告を掲載しているような低価格のネイルサロンが軒並み値上げに踏み切る一方、価格よりも質にこだわる中級〜高級サロンでは価格は据え置きか、むしろ値下げに転じる店もあるのだ。
今まさに他業界でも言われている二極化、勝ち組と負け組の分岐が起きているのである。
なぜそのような動きが起きているのだろうか?
それぞれの経営事情を見てみるとその違いが明らかになった。

東京都港区のとあるネイルサロン。開店当初から大手クーポン誌サイトに掲載し続けている。
クーポン誌サイトの魅力は、口コミでネイルサロンを選べる点だ。
初めて行くネイルサロンなのだから、そこへ行ったお客様の生の体験談を見たい、というのは自然な欲求であろう。
しかし、そこには客の知らない事情がある。
客が自由に投稿する無数の口コミ、その中には良い口コミもあるが、クレームのような悪い口コミもある。
ネイルサロン側は、その中から良い口コミだけを選んで公開する事ができるのだ。
さらに、口コミランキングで最上位に掲載されることを保証することもあるという。
要は、口コミサイトといえど、広告掲載料で成り立つ広告媒体の一種なのだ。
この店の売りは、初回限定のキャンペーンだ。スカルプチュア、ジェルアートがやり放題でXXXX円!という内容で多数の新規顧客を獲得している。
二回目からは通常料金に戻るため、1回来ただけで2回目は来ない客もいる。
リピーターになりにくいシステムには多少の疑問も感じるが、それでもネイルサロン側からすると、他のネイルサロンでも同様のキャンペーン割引を実施しているため、やめたくてもやめられない、というのが実情のようだ。
その低価格サロンでも4月から、一部のキャンペーン価格を(消費税増税分以上に)値上げしたり、「やり放題」のアートの範囲をより原価の安いものに変更したり、有料オプションを増やしたりと、実質的な値上げに踏み切っている。
原因はネイルの原価、人件費や広告費の上昇だ。
一つめはジェル。
低価格のサロンではネイルのジェルは外国産の安いジェルを使っていることも多い。
その外国産のジェルが、長引く為替の円安で原価が値上がりしており、ついに価格に転嫁せざるを得なくなっているケースがあるようだ。
二つめは広告費。
雑誌広告やクーポン誌広告の広告料も、4月からは消費税分の値上げが店舗側の負担になる。
また、いくつかの広告媒体誌では、大手企業の業績回復による発注増加の波に乗って、単純な値上げを実施する広告媒体も多いと言う。
雑誌やクーポン雑誌の読者数が増えているわけでもないのに広告費が値上げになるのだから、サロン側からすれば単純なコスト増になり、これも、サロンの経営を圧迫して値上げの要因になる。
三つめは人件費だ。
首都圏の大手企業では雇用、採用が拡大傾向にあり、一般事務職の派遣やアルバイトの時給相場が上昇しているという。
一見、ネイリストの人件費とは関係ないようにも思えるが、実は多いに関係がある。
20〜30代の女性の人材は、同じ時給では、どうしても企業の事務職などの(ネイリストよりも楽な)仕事に流れてしまう。
人材としてネイリストを確保するためには時給を上げるなど、結果的に人件費が増大する流れなのだ。
そしてさらにネイルサロンの家賃、テナント料も値上げの傾向にある。
特に東京都では、東京オリンピック開催決定、為替の円安などで外国人投資家の投資が不動産に流れ込んでいる。
これにより不動産価格は昨年から上昇を続けており、家賃もそれにつられて値上がり傾向にある。消費税の増税分を上回るコスト増が見られるのだ。
低価格を売りにしていたネイルサロンだが、増税、円安、景気回復により値上げを余儀なくされている現状では、サロンでは方針の再検討が必要かもしれない。

一方、従来から価格よりもクオリティを重視しているサロンではどうだろうか。東京都渋谷区のネイルサロンでは、4月1日の消費税増税にもかかわらず、税込み価格は変更しなかったそうである。
これは実質的な値下げになる(約3%ほど、税抜き価格を落としたに等しい)が、特にネイルサロン側が、その値下げを大きくPRすることはしていない。
また、月替わりのジェルネイルキャンペーンは従来よりもさらに価格を数百円下げ、新規来店だけでなく2回目以降の来店にまで範囲を広めたという。
前述のクーポン雑誌に掲載するネイルサロンと、方針は違うとはいえ同じネイルサロンである。
経営上発生する様々なコストは増大しているはずだが、話を聞いてなるほどと思った。
まずそもそも(大手口コミ、クーポンサイトなどの人工的な口コミではない)人から人への自然な口コミにより新規の来店があるので、広告掲載料がほとんど発生していないらしい。
また、中級〜上級のサロンでは、ネイルの機材や器具、ジェルは品質にこだわるため国産の製品を使うのが普通だから、円安の影響もないそうだ。
さらに人件費も、小規模なサロンであり、また1級資格保有者、コンテスト入賞者などの上級ネイリストは大手企業の事務職の人材マーケットなどとは関連性も薄いのか、特に変化はないそうだ。
店長によれば店の売りは、新規来店を含む全ての顧客に対してネイリスト技能検定1級とジェルネイル検定上級の両方の資格を持つネイリストが担当することと、ジェルネイルを硬化(硬めること)するときにLEDライト(通常の紫外線ライトでは皮膚にシミやシワの原因になるという)を使うことだという。
こういった価格以外の訴求ポイントで従来からマーケティングしていることも、消費税の増税といった社会の動きに影響されない要因なのかもしれない。
また、キャンペーン価格をこのタイミングで値下げした事については、業務効率化による成果だとしている。
それによると、以前は週7日営業で、接客の合間に事務作業などの業務を行っていたのを、週6日営業にし、6日間は接客に集中、残りの1日は事務業務とすることで、業務が効率的に進められるようになったそうだ。
この店ではジェルネイルを手軽に楽しんでもらうという主旨でキャンペーンをやっているらしい。
もともと顧客の大部分がリピーターであるらしく、クーポン雑誌等で新規来店を精力的に集める必要はないそうだ。
リピーターが多い ⇒ 広告費をかけない ⇒ 価格に転嫁する必要がない ⇒ 価格を抑えて高品質なサービス提供 ⇒ さらにリピーターが増える
という好循環ができているのかもしれない。


まとめになるが、価格はビジネスの上では重要であるし、キャンペーン等で価格のメリットを訴求すれば、当たり前だが一時的に売り上げを増やす事ができる。
しかし、価格だけに頼ると、今回のような消費税増税、円安、景気回復など様々なコストの増加が起きたときに、利益を減らす事になる。
一方、価格よりも質に重点を置いた経営を貫けば、企業の成長スピードは遅いかもしれないが、外部要因にあまり影響をうけず堅実に事業を継続することもできる。
コスト、価格に大きな変化が訪れたこの4月、ぜひ職場やご家庭でも、価格と質の議論をしてみてはどうだろうか。